いろんなことを思うため

いつもより人が少ない大衆酒場での昼下がり。カウンター席でちびちびやっていると、隣に座っているおじさんふたりの会話が聞こえてきました。おそらく一人は何度もこの店に来たことがあり、もう一人は連れて来られたのだと思います。

「こういうところに来ると、いろんなことを思うでしょう〜。それがいいんですよ」

何度も来たことがあるほうのおじさんの言葉に、私はとても共感しまして……。

厨房をぐるんと囲む大きな長方形のカウンターには、実にいろんなお客さんが座っています。カウンター席だから、一人客か二人客ばかりなのだけれど、年配の人から若い人まで。もう働いていなそうな世代の人もいるし、現役世代の人では職業の幅が広いであろうことが見てわかります。

属性の違う人たちの言動が見えると、自然といろんなことを思うもので……。さらに、それぞれの注文内容を気にしてみると、これまた面白いんだなあ。お隣の二人がここの唐揚げはおいしいと会話しているのが聞こえてきて、初めてこの店の唐揚げに興味を持ちました。自分はどて焼きばかり食べていたことに気づくのです。食べることだけに集中していたら、この先もずっとどて焼きとおでんばかり注文していることになるでしょう。

厨房内で料理をするシーンや、提供するシーンも観察してみると、きりがないくらい、いろんなことを思います。思うこと・考えることっておもしろいなあと感じます。その内容が、入店するまで予想だにしていなかったことであればあるほど、そう思います。

いつだったか、ここに来ている常連さんに、おすすめのレトルトカレーを教えてもらったことがありました。レトルトカレーを食べる習慣がなかった私は、すぐには試さなかったのですが、半年ちかくたってようやく試したところ、レトルトとは思えないくらい大きな野菜がごろごろ入っていて。想像を超えるくらいおいしくて、びっくりしたのでした。それ以降、たくさんリピートしています。

飲み食いすることが好きなのはもちろんだけども、いろんなことを思って、いろんなことを発見するために大衆酒場に来ているというのは大いにあるなあ〜、と改めて思ったのでした。